保線篇

当たり前の毎日を、足元から支え続けます。

工務部 保線課 尾崎渉

保線の仕事は、毎日の安全・あんしん・快適を支える「縁の下の力持ち」です。

線路の点検と補修が、私たち保線の仕事です。電車は毎日お乗りいただくものですから、点検や補修に休みはありません。例えば線路を目で見て点検する「線路巡視」は、阪神電車の線路全長48.9kmのすべての区間を10日に一度以上の頻度で歩いて点検します。目で見て、計測し、わずかな傷や摩耗、歪みも見逃すことはできません。緊張の連続です。
保線の仕事は、縁の下の力持ち。毎日ご利用いただくお客様にとって、電車は時刻通りにやってくるのが当たり前。その当たり前を365日続けることこそが、私たちの使命だと思っています。

線路の状態を常に見続けることが、素早い対応につながります。

線路を守る仕事に、心配の種は尽きません。レールは鉄でできていますから、列車通過のたびに削れて、摩耗していきます。また、太陽が照りつける夏には延び、冬には寒さで縮みますので、線路に湾曲、破断が生まれることもあります。台風、地震などで損壊することもありますので、そういった時は緊急点検も行います。
検査を通じて線路の異常をいち早く見つけ出し、事故を未然に防ぐには、普段から線路の状態を見続けることが非常に大切です。普段との違いがわかれば、素早い対応につながるからです。線路を見守る気持ちは、子どもの健康を見守る母親のようなものかもしれませんね。
また、私たちが作業に取り組むうえで、何より重視するのがチームワーク。保線作業は常にチームで行い、何人もの目でしっかりと確認し、確実に遂行することが求められます。対応力にも“これで万全”ということはありませんから、積み重ねた経験や日々修練した技術が欠かせません。
私はもう30年近くこの業務に携わってきました。この技術を次の世代へと引き継いでいくためにも、まだまだ気は抜けません。後輩には、「早く追いつき、追い抜いてくれ」という気持ちでいっぱいですね。

阪神・淡路大震災の経験を、次世代に受け継いでいく。

阪神電車は歴史も古く、人々の日常を支える存在です。私自身、鉄道マンとして阪神・淡路大震災を経験しました。お客様に電車をご利用いただけなかった悔しさは、今でも忘れられません。
当時、私たちが復旧工事をしていると、沿線の皆さまからたくさん応援の声をいただきました。時には、あんパンの差入れをいただいたことも。涙が出るほど嬉しかったです。
地元の足を守る使命と街への愛情・愛着は、そうしたお客様との気持ちの結びつきがあればこそ。そんな体験や思いも含めて、次代の鉄道マンに引き継いでいきたいですね。

何事もなくて当たり前。その連続が鉄道マンの誇りです。

難しい補修やレールの交換など、時間のかかる作業は夜間に行います。作業の後に始発電車が走って行くのを確認すると、やっぱり“ほっ”としますね。私たちの仕事の精度は、電車の乗り心地にも影響します。新しいレールに取り替えた直後などは、私も乗客の一人として電車に乗って確認します。乗り心地の改善が実感できた時は、嬉しくなりますね。
保線の仕事は何事もなく電車を走らせること、100点をとって当たり前の仕事です。99点でもダメです。それがこの仕事の厳しさだと思っています。100点を取り続けることが鉄道マンとしての誇りです。